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最高裁判所第二小法廷 昭和34年(あ)677号 決定

被告人 少年S(昭一四・一・三生)

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人半田和朗の上告趣意第一点について。

被告人は、昭和一四年一月三日生であつて、本件第一審判決当時(昭和三三年一一月二二日)には少年法二条一項により少年であつたのであるが、本件が原審に係属中成年に達した結果、原判決当時(昭和三四年三月四日)においては、同条同項にいう、成人となつたことは記録上明らかである。しかして原判決は、被告人に対する第一審判決の量刑は相当であるとして、量刑不当の控訴趣意を排斥し、刑訴三九六条に則り控訴を棄却したものであるが、新刑訴法による控訴審は事後審であつて、控訴を理由ないものと認めて棄却する場合には、第一審判決時を基準として、被告人に少年法を適用すべきや否やを決すべきものと解するを相当とするから(昭和二六年(あ)第三一一五号、昭和二八年一月二七日第三小法廷判決参照)、第一審判決当時に少年であつた被告人に対し不定期刑を科した第一審判決を是認した原判決が、被告人に対し定期刑を科さなかつたことは正当であつて、所論の如く法令の適用を誤つた違法はなく(昭和二八年(あ)八五七号、昭和二九年六月三〇日第二小法廷決定参照)、違憲の論旨は前提を欠き採るを得ない。

第二点について。

論旨は違憲をいうけれども、実質は原審の裁量に属する未決勾留日数の不算入を非難するものであつて、結局量刑不当の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて同四一四条、三八六条一項三号、一八一条一項但書により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

弁護人半田和朗の上告趣意

一、原判決は憲法第三一条に違反する。

被告人は第一審判決において懲役五年以上八年以下の不定期刑の宣告をうけた。これは当時被告人が少年であつたためである。

しかるに第二審たる原判決は右第一審判決をそのまま維持した。しかしながら被告人は原判決当時(昭和三四年三月四日当時)既に成人に達していたのであるから、原判決のとつた右の態度は正当でない。即ち少年法第五二条の明文は「少年に対して……処断すべときは……」と述べて少年に限つて不定期刑を科するものとしている。

とすれば、たとえ第一審判決を相当と認める場合であつても、既に成人に達した被告人に対しては、原審としては職権を以て第一審判決を破棄し被告人に定期刑を科するのが至当であつたというべきである。(第一審判決維持の場合と破棄自判の場合を区別すべき理由はないし、上記の如く解することは控訴審のいわゆる事後審構造とも矛盾しない。)

畢竟この点で原判決は法令の解釈を誤りひいては法定手続の保障を定めた憲法第三一条に違反するものである。

二、原判決は憲法第三七条一項に違反する。

原判決は僅か四〇日のみの未決勾留日数を本刑に算入したに過ぎない。しかしながら第一審判決の日と原判決の日の間に三月有半の日数が存在した一事のみを以てしても右の算入は少きに過ぎる。本来未決勾留日数の本刑算入は任意的であるとしても、その日数の大部分が事務的手続的事項に費されている場合、その算入が余りに少きに過ぎるときは不当に被告人に不利益を強いるもので、これを裏面からいえば迅速な裁判を規定した憲法第三七条一項に反するものである。原判決はこの点でも憲法に違反している。

以上二点により原判決は速かに破棄さるべきものと思料する。

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